介護保険では認知症介護“限界”

 28, 2008 12:00
介護保険では認知症介護“限界”


 高齢社会の急激な進展により、厚生労働省の推計で2020年代には300万人に達するとされる認知症高齢者。彼らを介護の側面から支える際、介護保険サービスがその手段として真っ先に挙げられる。しかし、サービスの内容や利用回数に厳しい制限のある現行の制度のままでは、24時間365日目が離せない認知症高齢者を在宅で支えることは困難とする声もある。施設から在宅へ―。厚労省がそのような方針を掲げる中、介護サービスの現場で今、求められているものは何か。現場の声を基に検証する。

【時間外サービスで負担緩和】
街の中心である平塚駅から真っすぐにのびた線路沿いの道を左に折れると、閑静な住宅街の一角に民家と見紛う「宅老所ひなたぼっこ」がある。ここは、夏の七夕祭りには多くの観光客でにぎわう神奈川県平塚市。ひなたぼっこは06年の介護保険法改正で創設された「認知症対応型通所介護(デイサービス)施設」として認知症高齢者のケアを中心に行っている。

 ひなたぼっこは通常の介護事業所とは異なる特徴がある。それは、介護保険外のサービスとして利用者が一晩宿泊できる体制を整えているということ。これにより、24時間365日の対応も可能だ。
 「デイサービスの利用だけでは時間が限られてしまうから」。ユニークなサービスを導入する理由についてそう語るのはNPO(特定非営利活動法人)としてひなたぼっこを運営する大見京子さん。介護報酬設定上、デイサービスの利用は通常8時間までで、延長を含んでも最大10時間と定められている。しかし、大見さんによれば、認知症の介護には常に何が起こるか分からないという不安がつきまとうため、結局1日のうち残りの14~16時間については介護者家族が神経を尖らせているのが実態だそうだ。

 大見さんがひなたぼっこを開設したのは、脳血管障害により父親が認知症になったことがきっかけ。介護のことを知ろうとホームヘルパーの資格を取得した大見さんは、介護を必要とする人への援助体制が不十分であることを介護現場で実感。在宅介護、施設介護、調理、主婦、行政、建築士など地域に住むさまざまな分野の人たちが集まって「平塚に宅老所をつくる会」を00年に結成、01年にひなたぼっこを立ち上げた。
 ひなたぼっこは、介護保険が適用されない時間帯、1時間1,000円という赤字覚悟の低料金でサービスを提供している。自身の父親の介護を通じて認知症介護の苦労を知り、少しでも介護者家族の力になりたいという強い思いが大見さんにはあった。臨機応変にできるかぎり対応するという設立当初からの取り組みは先進的で喜ばれている。週5日勤務で介護が困難だった嫁が、平日には義母を夕食が済むまで預けていたケースも。大見さんによれば、ひなたぼっこがなければ仕事を続けていたかも分からなかったそうだ。
 しかし、最近では宿泊の利用も減ってきていると大見さんは明かす。その理由は、特別養護老人ホームや老人保健施設などに日割りで短期間入所する「短期入所生活介護」(ショートステイ)の数が増えてきているからだという。大見さんは言う。「これまで時間外にサービスを提供することの重要性を伝えてきた。きっとその役割を果たすことができたのだと思う」。

【受け入れ側の苦悩深く】
 いつでも必要に応じて家族を認知症の人から解放してくれる―。ショートステイなどが持つそんな役割が求められていることは、新潟県が04年に実施した調査結果からも浮き彫りになっている。調査は、認知症になった場合に必要なことがらを65歳以上の県民に尋ね、4,315人から有効回答を得たもの。それによると、「緊急時や介護に疲れたときなどに短期間預かってくれる施設(日中も夜間も通して)」と回答した人が全体の51.8%で最多。そのほか、「家族や親族の理解と協力」41.3%、「介護を手伝ってくれるヘルパー」34.1%、「特別養護老人ホームなどの大きな施設」26.1%、「グループホーム」21.0%などと続く。

厚労省の調査によると、介護保険制度が始まった00年に4,515か所だったショートステイを提供する事業所は、06年には6,664か所に増加。月間のサービス利用者数についても、00年9月の10万3,258人が、06年9月には22万4,163人に増えており、ニーズに応じて整備が進んでいるように見える。

 12人対応のショートステイを併設する東京都23区内の特養の施設長も「利用者や家族がショートステイを重宝していることは明らか。家族からわざわざ感謝の手紙を頂いたこともある」と話す。常に利用率は目一杯だそうだ。しかし、その一方で、特養における職員確保が困難になっている状況に触れながら「認知症の人が入所するときは、大声を上げる、徘徊するなどさまざまな症状を考慮して、極力手間がかからないよう日程や入所者を調整せざるをえないのが実態」と受け入れ側としての苦悩ももらした。

 東京都大田区で居宅介護支援事業所「ケアプラン田園」を運営するケアマネジャーの入野豊さんは「ショートステイの利用には2~3か月前からの予約が必要」と打ち明ける。それでも、どうしてもすぐに利用したいという家族からの要望も多く、探し抜いた結果、静岡県熱海市のショートステイを紹介したこともあるという。

 ショートステイのほかにも泊まり機能を有する事業所はある。介護を必要とする人が住み慣れた地域で暮らし続けられることを目指し、在宅介護の切り札として06年4月から創設された「小規模多機能型居宅介護」だ。ここでは、訪問介護、デイサービス、ショートステイの3つのサービスを一体的に提供。1か月の報酬は定額制で、事業所のケアマネジャーが3つのサービスをどのように組み合わせるか個別にケアプランを作成する。
07年12月現在、この事業形態として介護報酬を請求したのは全国1,181か所。着実に増えてはいるものの、まだまだ十分とは言いがたい。入野さんは「現行の介護報酬では職員を揃えるだけで経営が厳しくなる一方、利用者からしてみれば負担が大きいため」と分析している。

【同居家族に頼る介護保険】
 このように、期待されるサービス整備が不十分なことのほか、介護保険には認知症介護家族を悩ませる問題がある。それは「要介護度」による限界だ。
 要介護度とは、「要支援1」「要支援2」「要介護1」~「要介護5」という介護の必要度を順に表した7つの認定段階のこと。制度では、介護保険から支給される1か月の上限額がこの段階ごとに決まっている。例えば、要支援1では4万9,700円、要介護1では16万5,800円、要介護5では35万8,300円などがそれぞれの支給上限で、これを超える金額については利用者の全額負担となる。
 この限度額をめぐってどのような問題が起きているのか。練馬認知症の人と家族の会「ブーケの会」で会長を務める小泉晴子さんは「認知症が早期だと、支給額が低く、サービスに制限がかかる要支援と認定されてしまう実態がある」と指摘する。「認知症の人本人も介護家族も『早期だからまだ介護も“楽”』と周囲から言われながら、サービスを受けずに不安を抱えて自宅で過ごすほかない。認知症の場合、無条件で要介護1以上になる認定システムに改めるべきだ」。

 ただし、要介護1以上と認定されたからといって安心はできない。現状の上限額では、在宅サービスですべてを賄おうとするとすぐに自己負担が発生する現実もあるからだ。

 ひなたぼっこの大見さんは「現行の介護保険制度はけっきょく同居家族に頼るものになってしまっている」と意見する。「認知症の介護は親しい家族だからこそつらく感じてしまう。そんな中、第三者として良い介護に専念できる側面が介護職にはある。家族を十分支えることで在宅期間が延長される。介護される方も介護する方も楽になれる介護保険制度であってほしい」。

 国が打ち出す社会保障費抑制政策の中で“ひずみ”が生じている介護保険制度。認知症の人やその家族を全面的に支えるには現状のままでは不十分と言わざるを得ない。今後、果たして制度はより良い方向に向かっていくのか。その答えは、実際にサービスにかかわる国民や介護事業者たちの手にこそ委ねられている。

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参照:キャリアブレイン

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COMMENT 1

kk  2008, 05. 28 [Wed] 13:04

高額サービス費用について

こんにちは。私の実母は認知症による介護1です。
まだ洗濯も掃除も出来、1人で美容院にも行けます。デイサービスを週に2回。老老介護で父が母の介護者です。
もっと進めばヘルパーを入れてサービスを増やして、自己負担分は高額サービス費で戻ってくる、と言うわけではないのでしょう?そんなに甘くはケアマネさんがプランを組んではくれないものなのですか?
これから先の疑問です。(離れている娘)

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