家族支援に見た「認知症介護最前線」

 11, 2008 12:00
家族支援に見た「認知症介護最前線」

高齢化の進行で認知症の人がますます増加すると予想される中、「彼らを支えるには介護者家族への支援こそが不可欠」として、地域に住む介護者家族同士の自主的な助け合いを支える市民団体がある。NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」だ。孤立しがちな介護者家族は、同じ境遇の人と気持ちを共有することを切に願っている―。加速する高齢社会の進行に共助の精神で立ち向かうアラジンの活動を見つめた。

【「前向きにとらえること」】
 窓から差し込む昼下がりの陽光が暖かい「ゆうゆう阿佐ヶ谷館」の懇談室。7人の男女が「阿佐ヶ谷介護者の会」の年明け最初の会合に集まった。在宅介護を続けている人、家族が施設に入居している人、すでに介護を終えている人など、彼らの現在は多岐にわたる。

 「グループホームに入居する母と久しぶりに実家で過ごしたけど、私一人で介助して転倒でもさせたら大変だから、結局お風呂には入れなかったわ」「リンパマッサージの効果って本当にすごいのよ。母のむくんだ足がみるみるうちに戻っていくんですもの」―。

 付き合いの長い6人は、この日初めて会合に訪れた女性を優しく迎え入れた後、このように近況を報告し合った。メンバーの口から次々に語られる年末年始の体験談。他のメンバーたちがその一つひとつについて丁寧に話を深めていく。感情や問題点を共有し、みんなで一緒に解決を図るのがこの会のスタイルだ。

 「妻が突然いなくなり、探すのに骨を折りました」。そんな中、メンバーで最年長の男性が浮かない顔でこう切り出した。聞けば、介護している妻が家から抜け出して行方不明になってしまったのだという。迷子札をつけていたため、パトカーが家まで連れて来てくれた。しかし、それまで本格的に認知症だと疑ったことはなかったため、男性としては驚いてしまったようだ。

 「とにかく見つかって良かった」。メンバーたちからはそんな励ましの声が上がった。また同時に、「ただ、それは認知症の疑いが強い。信頼できるお医者さんを見つけて、きちんと診てもらったほうがいいですよ」ともアドバイス。そこに、認知症の母を看取った経験のある女性が続く。「はじめは確かにショックなもの。でも人は必ず呆(ぼ)けてしまうんです。早く見つかって良かったということになるかもしれない。どうか前向きにとらえてくださいね」。
 すると、不安げだった男性の表情も変わった。「みなさんのアドバイスがあるから、私は何も心配していません。いつもありがとうございます」。そんな礼儀正しいあいさつに、談話室に笑顔があふれた。

 阿佐ヶ谷介護者の会の設立は2005年。アラジンが実施する養成講座を修了した「介護者サポーター」らでつくる「杉並介護者応援団」が中心になって立ち上げた。会合への出席も欠かさないサポーターの土屋洋子さんは「はじめは手探りだったけど、今はとてもいい調子」と話す。「まだまだ運営面などで課題も多い。でも地域でこのような取り組みが継続していくことが何よりも大切。もっと増えていけばいい」。

【地域で気軽に集まれる場を】
 このように地域にサポーターを派遣して、「介護者の会」の立ち上げや運営を支援するのがアラジンの主要事業の1つだ。「私たちの役割は、地域で集まれる場を提供すること」。アラジンで理事長を務める牧野史子さんは自らの取り組みについてこう説明する。
 これまで認定を取得したサポーターは12人で、そのすべてが現役の介護者と介護の経験者。アラジンは東京都杉並区から委託を受けており、現在、阿佐ヶ谷介護者の会を含めた区内の11の会の運営に携わっている。そのうちの7つはゼロから立ち上げたもの。これに加えて、首都圏を中心とした20数団体の会同士のネットワークづくりも進めてきた。「こうした取り組みをすべての地域で行政が積極的に実施してほしい」と牧野さんは願っている。

地域には悩み機能を持った機関がほかにも存在する。06年の介護保険法改正で全国に設置された「地域包括支援センター」は、高齢者虐待防止事業の一環として、家族からの相談に対応する機能が課せられている。だが、牧野さんはこれについて「まだまだ“対症療法”にすぎない」と指摘する。センターの問題点として牧野さんが挙げるのは、助言が専門的かつ指導的になりがちなことのほか、職員が多忙な業務に追われ相談時間が限られていること。それにより「家族・親族間の複雑な人間関係や家族史など、問題の本質までなかなか踏み込むことができない」のだという。では、地域に昔からある家族会はどうか。これに関しては「保健所を介してつくられてきたものが多く、専門家主導で閉鎖的になりがち。どこで開催しているかという情報も地域には見えにくく、家族を看取ってしまえば人は離れて行き、結果的に自然消滅してしまう」と明かす。

 一方、アラジンが支援する介護者の会を貫くのは自主性と継続性だ。「経験豊富なベテランから介護初心者が気軽に集まってお互いに学び合う。地域の“井戸端会議”あるいは“介護の寺子屋塾”のようなものかしら」。牧野さんはそう力説する。

 アラジンはこのほか、専用電話で悩み相談を受け付ける「心のオアシス事業」や、専門の相談員を家に派遣する「ケアフレンド派遣事業」などを実施。徹底して介護者たちの支援に当たっている。

【欠かせぬ介護者家族の支援】
 このような取り組みが求められているのはなぜか。「介護者が一人でさまざまな悩みを抱え込んでしまうことが背景にある」と牧野さんは強調する。
 牧野さんが介護者の悩みとして挙げるのはまず、認知症患者本人との関係。介護者にとって、親や配偶者といったような親しい人が“変わってしまう”現実を受容するのは難しいという。また、認知症患者には相手が身近な人であるほど暴言や暴力などできつく当たる傾向があり、このことも介護者を苦しめる要因になっている。
 しかし、このような介護者の気持ちが周囲から理解されることはほとんどない。この理由について牧野さんは「『娘だから、長男の嫁だから、配偶者だから“やってあたり前”』という日本社会の規範意識が根源的にあるため」と分析する。

 00年から始まった介護保険制度は介護家族の負担からの解放などを謳(うた)い、期待を集めた。しかし、「現行の制度では、介護費抑制政策の中でサービスの利用に厳しい制限があり、結果的に家族にしわ寄せが及んでいる。特に老々介護の問題は急務で、実は介護者が認知症であったりすることもある。“家族だから”というレッテルを張って問題を見過ごしてはならない。介護者への評価や直接的なサービスも必要ではないか」と牧野さんの指摘は厳しい。

 「介護者が望んでいるのは、日々の苦悩や葛藤を誰かに聞いてもらうこと、そして自分の介護を評価してもらうこと。さまざまなことに悩みながら、選択してきた経緯を認めてほしい。それがまず大事なのです。介護者にゆとりがなくて、どうして認知症の人を支えられるでしょうか」。牧野さんはそう力を込める。
 「介護は、高齢化が進む今後、ますます特別なことではなくなり、子育てなどと同じように、生きていれば自然に通過していくステージの1つになっていくと考えられます。だからこそ本人も家族も安心して生活できるよう、たったひとりの介護者に任せてしてしまうことなく、家族内や近隣で互いに助け合う、そんな仕組みづくりが求められているのです」。

 認知症―。一口に言ってもその症状はさまざまであり、また、それを支える家族環境も違って当然だ。だからといって、介護保険制度や周囲の人の対応に疑問を感じながら、1人で悩みを抱え込むだけでは何も解決しない。大切なのは、みんなで答えを探し、制度やサービスのあり方そのものにも、当事者から声を上げていくことではないか。アラジンのまく“共助”という名の種が今、地域で着実に花を咲かせている。

参照: キャリアブレイン

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